2012年8月14日火曜日

天冥の標V: 羊と猿と百掬の銀河


続いてもう一冊




題名
 天冥の標V: 羊と猿と百掬の銀河
著者
 小川一水
ジャンル
 SF
評価
 80点 良作!

あらすじ
 この巻は大きく2つのストーリーに分かれている
 一つは3巻・4巻の時代の後で、小惑星で農業を営むタック・ヴァンディというおっさんの話。もう一つは話の大本である、ノルルスカインとミスチフという2つの情報生命体の馴れ初めから、オムニフロラという脅威の誕生とそれに伴う戦争のあらましが語られる。

 前者のストーリーはタック・ヴァンディの元に、地球の女性研究者が訪れる所から始まる。
 彼自身の秘密、娘の秘密、宇宙で農業することの難しさ。そしてレッドリート。幾つかの謎と共に、敵対するミスチフ達の目的が見えてきたりする。
 後者のストーリーは、遂に人類の歴史の影に隠れて戦っていた2つの種族?のたどってきた道のりが語られる。

感想
 前巻とは打って変わってマジメにSFをやっている巻。
 2つに別れてるストーリーは両者とも重要ではあるのだが、やはり目がいってしまうのはノルルスカインとミスチフの方だ。こちらでは遂に、天冥の標世界の裏で戦ってきた黒幕がどういう存在なのかが明らかになる。想像以上に、距離的にもスケール的にも大きかった争いの存在に、正直上手く風呂敷畳めるのかなぁと心配になったりしたが、全10巻と銘打たれた作品ならこのぐらいのスケールでもいいのかもしれない
 異星人をどう描くかというのは映画でも小説でも漫画でも頻出のテーマだが、天冥の標の場合は2つの姿、情報生命体と生態系そのもので描かれている。情報生命体は描き方が違うもののよくある形だけれども、生態系そのものというのはあまりないように思える。
 そして尚且つ、かなりの難敵だという事も伝わってくる。

 知性というのは適応力だ。人類がこの地球で圧倒的な覇者たる地位に登ってきたのも、その柔軟性によるところが大きい。アフリカのサバンナにいたころの人類は、せいぜいスタミナがある程度の雑食の大型生物に過ぎなかった。しかしそれが火を発明し、服を着るようになり、道具を造りだし、家を作るうちにありとあらゆる環境に適応し、あるいは農業に代表されるように環境そのものさえ変えるようになった。
 進化というプロセスが環境への適応である適者生存の法則で動いているわけだが、知性という対応プロセスは進化よりも遥かに遥かに早い。鳥が恐竜から空飛ぶ鳥へと進化した期間は6000万年近くかかっている。しかし人類は、ギリシャのイカロスの神話からほんの数千年たらずで空を飛ぶことに成功した。まさしく圧倒的な早さである。

 だが、この生態系全体を有するオムニフロラは知性による回答プロセスに頼らない。
 彼らはありとあらゆる生物・遺伝子・解決プロセスを有しており、ただ単に答えを出すだけなのだ。そしてそのリソースはどこまでも広がり続けている。知性より早い巨大な生態系、それをいかに退治するかがこの物語のキーになっているのだろう。農家のおっさんの話で会ったレッドリートでさえただ1種で、生態系を変えてしまった。いわんやそれが連続しているオムニフロラをば。
 まさしく絶望的な戦いであり、ノルルスカインは正直もう勝てると信じていないような節さえある。

 そして、オムニフロラ=ミスチフの存在がわかってくると、何もかもが疑わしくなってくるのが常。ロイズ・スカイシー・救世群とあらゆるものが怪しさを増してくる。
 感想が長くなったので今日はここらへんにしておこう。暇があったら追加で、少しずつ物語の靄が晴れてきたのがたまらなく楽しかったので80点 良作!

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